大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所栃木支部 昭和42年(ワ)5号 判決 1969年4月04日

主文

被告野口誠は原告タケに対し金二〇〇万円、原告久男、同栄子、同和枝に対し各金一〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年六月五日から完済まで年五分の割合の金員を支払え

原告らその余の請求を棄却する

訴訟費用中原告と被告野口誠との間に生じたものは同被告の負担としその余のものは原告らの負担とする

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮にこれを執行することができる。

事実

原告らは請求の趣旨として被告らは連帯して原告タケに対し金二〇〇万円その他の原告に対し各金一〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年六月五日から完済まで年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め請求の原因として

一、原告タケは亡鈴木一の妻他の原告はその子である。被告木原は木原産業又は木原建材の名称を用い従業員多数を雇い入れ砂利等の採取販売業を営み被告野口をその営業のため運転者として雇用している。

二、被告野口は自動車の運転業務に従事中昭和四二年六月四日午後七時五〇分頃栃木市木野地町一八〇番地道路を大型貨物自動車(ダンプカー)を運転していたが対向車とのすれ違いのため一時停車し後退しようとしたが後方の安全を確認しないまま後退した過失により折柄後方から原動機付自転車を運転して一時停止していた鈴木一(五四才)に気づかず自車後部を衝突して轢過しこれを即死させた。右事故により同被告は昭和四二年九月一四日当庁において禁錮一年六月の言渡を受け目下水戸少年刑務所において服役受刑中であるが同被告は直接行為者として又被告木原は使用主又は自動車を自己のために運行の用に供する者として原告らに加えた損害を賠償すべき義務がある。

三、原告らの蒙つた損害は次のとおりである。

(一)得べかりし利益の喪失による損害

亡鈴木一は大正二年七月生(当時五四才)の健康体で職人四名位を雇用して大工職を営み月収七万五〇〇〇円以上を得ていたから平均余命一九年余あり今後少くとも一〇年間は右収入を得ることができた。原告方では右一とは別に原告タケ同久男の二人が協力して農業を営み田畑約一町五反歩を耕作していたから一の大工としての収入のうち毎月金四万円を生活費に向けていたので同人は一ケ月金三万五〇〇〇円の純収入を得ていたものというべく一〇年間に金四二〇万円の収入を得べかりしものでこれを一時に請求するとすれば

4,200,000円×7,9449,4948(ホフマン係数)=3,336,875円

となる。原告らは本件につき強制保険により既に金一五〇万円の保険金を受けているからこれを右利益の一部に充当したのでその残額は金一八三万六八七八円となり同額の損害賠償を請求しうるからこれを原告らはその相続分に応じて

原告タケ三分の一金六一万二二九二円

他の原告三名各九分の二金四〇万八一九五円

の権利を承継したものである。

(二)亡一の慰藉料

亡一は本件事故により非業の死を遂げ甚大な苦痛を受けたのでその慰藉料は金三〇〇万円を以て相当とし右の割合により原告タケは金一〇〇万円他の三名は各金六六万六六六六円につきその権利を承継した。

(三)原告らの慰藉料

原告久男は昭和二二年一二月生れ、高等学校卒業後国鉄に勤務中、原告栄子は昭和二五年三月生れ昨年高等学校を卒業後現在家事の手伝中又原告和枝は昭和二七年六月生れ現在高等学校在学中であるが原告タケは妻として他の三名は子として本件事故により多大の苦痛を蒙つたのでその慰藉料は原告タケに付て金二〇〇万円他の三名に対して各金一〇〇万円を以て相当とする。

(四)弁護士費用

原告らは被告らが本件事故に付一片の誠意を見せず被害弁償に応ずる態度を示さないので弁護士大貫大八、同大貫正一に委任し本件訴を提起したがそのため同弁護士に対し着手金七万円を支払い将来勝訴のときは認容額の一割を謝金として支払うことを約したのでその合計金五七万円を支払うことのやむなきに至つた。右支払額の負担部分は原告タケにおいて金二七万円他の三名において各金一〇万円である。

四、原告らは本訴において右損害金の内金から原告タケは金二〇〇万円、他の三名は各金一〇〇万円及びこれに対する事故の翌日である昭和四二年六月五日から完済までの年五分の損害金の支払いを求めると述べた。被告木原は請求棄却の判決を求め答弁として原告の主張事実のうら被告野口が実刑の有罪判決を受け目下服役中であること、被告木原が砂利採取販売を業としていることは認めるがその他の事実は全部争うと述べ抗弁として

一、被告木原は本件事故当時被告野口を雇い入れたのではない、ただ同人所有のダンプカーを持込ませ下都賀郡壬生町大字福和田地内の黒川の砂利採取現場から約二〇〇米の砂利選別所までの間を一回金一〇〇円の割で砂利を運搬させたにすぎないから同人との間には雇傭関係はなく同人は単なる下請人である。

二、又当日は第一日曜日で被告木原の事業所は休日であるから被告は同人の行動を管理する権限はない、被告野口は右休日を利用して同人所有の車両を運転し私用中惹起したのが本件事故であるから被告木原が責任を負うべき筋合ではないと述べた。

被告野口は合式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず本案に付答弁書その他の準備書面を提出しない。

立証として原告は甲第一ないし第九号証を提出し証人森川慶子、原告本人、鈴木タケの各尋問を求め被告木原は甲第九号証は不知、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

一、被告野口は原告らの主張事実を明らかに争わないからこれを自白したものとみなす、右事実によれば同被告に対する原告らの請求はこれを認容すべきものである。

二、次に被告木原に対する請求につき考える。〔証拠略〕を綜合すると

(イ)  被告野口は自動車の運転業務に従事中昭和四二年六月四日午後七時五〇分頃栃木市木野地町一八〇番地附近道路においてダンプカーを運転していたが対向車とのすれ違いのため一時停車し後退しようとしたがかような場合後退すべき後方に車両等があるかどうかにつき自ら又は助手等をして確認させる等の措置をとり安全を確認してから発進後退し事故発生を防止すべき注意義務があるのにその安全を確認しないで後退した過失により折柄後方から原動機付自転車を運転して一時停車していた鈴木一(五四才)に気づかず自車後部を衝突して転倒してこれを轢過して即死させたこと

(ロ)  右事故により被告野口は昭和四二年九月一四日当庁において業務上過失致死罪により禁錮一年六月に処せられ目下水戸少年刑務所に服役中であること

(ハ)  被告野口は運転免許をもたないものであるが昭和四二年五月八日頃から自己所有のダンプカーを持ち込み砂利採取販売業を営む被告木原方に於て一般道路ではなく従つて無免許者でも自動車を運転することができる砂利採取場構内での砂利運搬の仕事に従事してきたこと、その賃銀は自動車の使用料をも含め日給五、〇〇〇円を毎月一〇日の勘定日に支給される約定であつたこと(従つて事故当日まで末だ一回も賃銀を支給されなかつたこと)又この自動車に消費する燃料は雇主もちで同被告は妻子を砂利採取場付近にある飯場に他の従業員とともに住み込んでいたこと

を認めることができるので被告木原は自己の営む砂利採取販売の仕事に従事させるため被告野口を雇傭したものと見るのが相当であつてこれを被告木原の下請人であるとする証拠はない。

三、被告木原は本件事故は同被告の事業所で休日である第一日曜日に被告野口が同人所有の車両を用いその私用中に発生したのであるから責任がない旨抗弁するのでこれを考える。前記証拠によれば本件事故の当日(昭和四二年六月四日はその月の第一日曜日で被告木原方の休業日であつたこと、それで当日休業中を利用し被告木原方では被告野口ら三、四人の従業員に故障した砂利採取機の修理をなさしめた上その慰労のためビール数本を提供したこと、被告野口は右ビールを飲んだ上妻のとめるのもきかず偶々当日来遊した同被告の妹を自己所有のダンプカーの空車に乗せこれを自ら運転して同被告の実家へ送り届ける途中本件事故を惹起したものであることを認めることができる。かような場合被告野口の行為は客観的外形的に使用者の事業の範囲に属するものとはなし難く又被用者の職務行為とも認め難いのでこれを以て被告木原が「その事業の執行に付」又は「自動車を自己のために運行の用に供したもの」として同被告に本件事故の責任を問うことは許されないものである。それで被告木原に対する原告の請求はその他の判断をなすまでもなく失当である。

四、それで原告の請求中被告野口に対するものは認容すべきであるがその余は棄却し民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 西口権四郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例